おいのちさんの 物語

昨年のある夏の日に、私の手にふわりと降りて来た物語。私と、シコリんと、いのちの物語です。

同じ病気の人やそのご家族、娘さんのいるお父さんやお母さん、いのちの現場にいる人の心に、おいのちさんの優しい声が届きますように…(^人^)

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おいのちさん

おいのちさんはお母さんのお腹の中にいる時から、もしかしたら、そのきっとずっと前から 女の子と一緒にいました。

おいのちさんは 女の子のお乳に吸い付く力 寝返りする力、はいはいする力 立つ力を助け ひとつひとつ真っ赤な顔をして
がんばる女の子をニコニコ見ていました。

ある日女の子は「わたし」にであいました。

いたずらをして怒られたり、手に取りたいものを見つけたり、だれかのよろこぶ顔や 悲しむ顔を見るたびに「わたし」はどんどん成長していきました。

「わたし」は冒険好きでちょっぴり欲張り。
時々臆病で、うまくいかないとすぐにしょげたり泣いたり。
でもうまくいくと手を叩いて大喜び。そんな「わたし」の成長をおいのちさんはいつもニコニコみていました。

ある日「わたし」は、とてもとても大きくふくらみました。

だれかにぴかぴかのバッチをもらったり、バッテン印をもらったりするたびに、お友達や他のひとと比べるたびに、新しい世界や人々にであうたびに、カエルのお腹のように、ぐんぐん大きくなっていきました。
もう少し大きくなり、少し女の子らしくおすましになってくる頃には、「わたし」のいきおいは絶好調!冒険や失敗、男の子たちとのけんかや女の子との遊びを通して、「わたし」は世界に船出していきました。

そして
「わたし」は恋をしました。ふくらむ一方、大きくなる一方だった「わたし」は、時にしぼんだり、硬くなったり、ふんわか柔らかくなったり、生き物のように形や色を変えました。
そんな「わたし」を おいのちさんは目を細めながら 満足そうにニコニコとみつめていました。

そんな「わたし」にも、人生はさまざまな波を用意していました。大小の波に翻弄され、時に傷つき、苦しみの中で ある日「わたし」はふとしたことから「あきらめ」という花の種を手に入れました。

この種は、悲しみやさみしさ、「わたし」の思いとおりにならないことにであうたびに、「わたし」と「おいのちさん」の間に、静かにひたひたと広がり、気づかぬうちに一面に花を咲かせていきました。

とうとう、おいのちさんと「わたし」はすっかり覆いつくされてしまいました。

おいのちさんは「わたし」に一生懸命呼びかけました。

「ここですよ」「ここにいますよ」

けれど「あきらめ」の花にうもれてしまった「わたし」の耳に、その静かで穏やかな声はとどきません。

「わたし」が口を開こうとしても花が口に中に入ってきて、声がでません。
最後の力をふりしぼって女の子は叫びました。「おいのちさん、たすけて」。

おいのちさんは考えました。

生まれる前からずっとずっと見守ってきた女の子。愛くるしい赤ちゃんの時からずっと一緒にいた女の子と手をつなぐにはどうしたらいいのでしょう。
おいのちさんは ののさまにお願いしました。

すると、ある晩、おいのちさんの願いにこたえて、ののさまは「わたし」のハートの上に おいのちさんの声の入ったしゃぼんだまの粒をそっとおさめました。

「わたし」がその粒に気づいて触れるたびに、しゃぼんだまがはじけておいのちさんの声がきこえる ののさま特製のしゃぼんだまです。

「わたし」が一つ一つ、しゃぼんだまに優しく触れると「ここですよ」「ここですよ」とおいのちさんの声が聞こえました。その声を一生懸命辿って「わたし」が歩みを進めていくと、不思議なことに次々に花たちが消えていきました。
まるで誰かが優しい手でふれているかのように、静かに、一つ、また一つ、花たちは消えていったのです。

ついに、おいのちさんと「わたし」は広い野原で であうことができました。

「おいのちさん はじめまして。ようやく出会えました」

ぽろぽろ涙をながす「わたし」を、おいのちさんも心からほっとした笑顔でにこにこみつめています。

ふたりが手をとりあって 周りを見渡すと たくさんのおいのちさんたちが
まるで銀河の天の川ように そこここに あちこちに 光り輝いているのが見えました。

これからも、おいのちさんと「わたし」はずっといっしょ。
今までより もっと寄り添って 次も その次も 星のかなたまで旅をしながら・・・。